ごあいさつ

                                      世界のコメ学際研究グループ代表 伊東正一

 

私たち「世界のコメ学際研究グループ」は1991年から科学研究費により、当初は世界のジャポニカ米の現状と潜在性を中心に2000年度まで研究を継続してきました。その後3年間はメンバー各自での研究とし、2004年度から改めて世界のコメ研究を再開しております。テーマは「世界におけるコメの消費拡大・普及戦略に関する学際的総合研究」(2004年度〜2006年度、基盤研究A)で、コメをめぐる消費減退の現状と消費拡大のための戦略を追及していきます。

 研究の成果をいち早く一般社会に公開しようと、毎年1回、過去9回にわたり、全国各地で報告会・シンポジウムを開催してまいりました。学際研究という、社会科学の専門家だけでなく自然科学の専門家も一緒に現地調査や研究を重ねる中で、互いに議論を闘わせ、現状と今後の見通しをより正確に把握し、シンポジウムではその情報をお伝えしながら、参加者の皆様からもご意見・情報を賜りたいと思っております。

今回の研究再開におきましてもこの方法を継続し、これまでの流れを汲んで、第10回という形で東京で開催することに致しました。参加者の皆様の活発な情報交換がなされ、実りある報告会・シンポジウムにしたいと思います。今回の開催は、日本学術会議の農村計画学研究連絡委員会に主催していただき、会場提供等のご支援をいただきました。

なお、本研究には筑波大学、東京大学、信州大学、京都大学、龍谷大学、神戸大学、九州大学、鳥取三洋電気KK、鳥取大学の機関の教員または研究員が参加しております。

 

本プロジェクトの特徴

1.「RS方式」による研究と啓蒙活動

 今年度から3年間のこのプロジェクトは「RS方式」で進めています。これは、海外での調査(Resarch)と現地でのシンポジウム(Symposium)を同時に進め、世界各地での啓蒙活動を一緒に展開していく、という新たな研究・情報発信の方法です。現地において、調査研究とシンポジウムを同時に開催することにより、また、日本の研究者の研究実績を各国で情報発信すると同時に、現地の研究者や一般社会人との情報交換により、日本の研究者も得るところが多いことを期待しています。

 この「RS方式」により、2004年度は、7月に韓国を訪れ、現地のコメ生産・消費の状況を調査し、723日にソウルの高麗大学でシンポジウムを開催いたしました。日本からの報告が10人、韓国からの報告者が10人という、合計20人による熱のこもった報告が行われました。市民の参加者に加え、マスコミの関係者も取材に訪れ、コメの消費状況について、お互いの国の状況、及び世界の状況について情報発信をすることができました。さらに、20051月には、タイを訪れて同様の調査をした後に、17日にバンコクのカセサート大学でシンポジウムを開催いたしました。タイは世界最大のコメ輸出国であり、それだけに生産拡大の研究に力が注がれ、消費の面における研究はあまり見かけられません。それだけに、世界のコメ需要の減退に関する情報は、現地の方々にとってはショッキングな情報と映りました。しかし、これがきっかけになり、現地の稲作関係者の間では、国内のコメ消費をどのように拡大していくか、この点に関する研究がきわめて重要である、ということがこれまでになく強く認識されたようでした。このシンポジウムには「王立タイ稲作基金」の協賛を戴きました。

 2005年度は、夏に米国を調査し、首都ワシントンでシンポジウムを開催する予定です。その後も、中国、台湾、フィリピン、そして、EU諸国で「RS方式」を展開していく予定です。

 

2.ホームページを駆使した情報発信

 研究成果はより早く社会に提供することによりその効果がより多く表れます。本プロジェクトでは研究の中で得た情報をシンポジウムを通じて研究成果報告をするわけですが、そのときに使ったスライドやペーパーを速やかにホームページにアップし、社会に提供していきたいと考えています。ホームページの閲覧はYahooMSNなどの検索で「世界の食料統計」と入れていただくか、または、ホームページのアドレス: http://worldfood.muses.tottori-u.ac.jpですぐにご覧になれます。

 

3.「世界の食料統計」のデータの提供

 本プロジェクトでは、「世界の食料統計」と題して世界の200ヶ国・地域の食料データ(コメ、コムギ、コーン、ダイズ、ブロイラー、七面鳥、チーズ、豚肉、牛肉)に関して基礎データを1999年度より提供してきております。当初は主要穀物の4品目だけでしたが、その後、畜産物にも範囲を広げ、さらに、言語も日本語と英語だけだったものに、スペイン語と中国語を加え、4ヶ国語で情報発信しています。オリジナルなデータは米国農務省から発信されていますが、私たちは、その生データを加工し、グラフ化して、一般の方々が見やすいようにして掲載しています。

 来年度中には品目の数をさらに増やし、雑穀類、油脂植物、及び餌類、水産物、に関する品目を加えます。これらの品目では国の数が極端に少なくなりますが、世界の合計や生産主要国の状況が把握できますので、資料として価値の高いものであります。なお、このホームページは上記のアドレスから入ることができます。

 

 

今年度の報告会・シンポジウムのポイント

世界のコメの消費減退はその後もアジアの各地で続いており、年を追うにつれて減少し、このままでは世界のコメが危機的状況に突入することが心配されます。アジア地域でのコメ消費の減少傾向は、日本をはじめ周辺各国でも深刻で、一人当たり消費量減少が下げ止まらないのが実状です。

台湾では過去40年間で一人当たりのコメ消費量が160kgから50kgへと3分の1に激減。その間、日本は半分に、韓国もここ20年間急減しています。中国でも1990年をピークに着実に減少し、そのスピードは台湾や日本ほどではありませんが、このままでは確実に消費量が減少していきます。世界の人口が伸びればコメの消費も伸びるという楽観的な時代ではなくなってきたのです。

つまり、それだけ作物間競争が世界的に厳しく、畜産物の消費量が増大する中では、コメという主食的な食べ物は一人当たり消費量では減る一方となります。加えて、アジアは世界のコメの9割を生産・消費し、主に主食として消費されています。だからこそ、コメの消費減退はアジア農業の衰退をも意味しています。

今回の報告会・シンポジウムでは世界、日本、韓国、タイにおけるコメ消費を取り巻く現状を報告します。さらに、消費拡大の糸口となる、発芽玄米の効用、コメ加工品の開発、炊飯器の性能改良の可能性などについても報告します。

当資料はこれまでのグループの研究の中間報告としての位置づけをとっています。本研究は、少なくとも2006年度までは続ける予定です。

 

【謝辞】

今回の資料の作成、並びにシンポジウムの準備において、多くの方々にお世話になりました。毎回のことでありますが、手作りのシンポジウムであり、多くの学生諸君の協力があって初めて実現するものであります。情報発信源となっています当ホームページの維持管理においても然りであります。今回は特に、鳥取大学農学部大学院修士課程1年生の木村俊君は学生スタッフのまとめ役の傍ら、資料作成においても細部にわたりチェックをしてくれました。加えて、4年生の三島江里子君と小暮千歌子君、3年生の久保貴史君と平尾純子君、2年生の藤原智生君、福井佳織君、桑原知広君は春休みを返上してシンポジウムの準備から当日の作業まで、多方面にわたり協力してくれました。また、伊東研究室の秘書として勤務いただいている山本幸子さんには日頃から研究グループのメンバーとの連絡や研究室の事務管理に力を注いでいただき、同時に、今回のシンポジウム準備のために連日、予定の勤務時間を超えて作業をしていただきました。

さらには、日本学術会議・農村計画学研究連絡委員会には今回のシンポジウム開催に当たり共催、かつ場所の提供をしていただき、大変ありがとうございました。今後ともこのような協力体制が続けられますよう望んでおります。

そのほかにも大勢の方々のお力をお借りいたしました。研究グループを代表いたしまして、心より感謝申し上げます。