タイ,ベトナムにおけるコメ加工品開発

 

                      鳥取大学     石川 行弘

 

1.はじめに

2004年度中に,韓国,タイ及びベトナムに研究調査に出かけた。コメを主体に食事構成がなされている国々であるが,韓国を除いて,コメの消費拡大に関する問題は,あまり意識されていないように思われる。経済的に豊かになればなるほどコメの消費量が減少するのが傾向となっており,穀物品種間の競争が激しさを増している。コメは,栄養的にも小麦やトーモロコシより優れており,コメ単独に大量摂取すれば,タンパク質の必要量をまかなえる優れた作物であるが,副食となる肉類が増えると,パンなどの小麦粉を用いた製品の消費拡大に向くのが現状である。

 コメと小麦を比較して,コメの最大の弱点は価格が高いことである。しかし,コメの生産に適したアジア地域は,必然的に小麦の生産に不向きであるが,コメを生産しなければ生活基盤を失うことも確かなことである。そのための消費拡大には,どのような戦略が必要なのであろうか。

最近,コメの利用率を上げるために,様々な試みがなされている。コメ自体については,使用目的に合った品種の育成などについて,グループの1人がタイのカセサート大学におけるシンポジウムにおいて研究報告を行なった。また,理想のイネを育種する農業生物資源研究所を中心にしたグループもある(井澤 毅,矢野昌裕,食品工業,47(23)34-432004))。コメの利用面については,コメパンなどがある。世界イネ研究会議(200411月,つくば国際会議場)において,アメリカの研究者がコメパンについて研究発表していた。1979年にUSDAの西部研究所を訪問したとき,小麦アレルギーの人のためにコメパンを開発していたので,長期間の研究を継続していることが分かった。最近,日本でもコメパンが少しずつ販売量を増やしているようである。また,発芽玄米も150億円市場になっており,これからも消費拡大が期待されている。今後とも,コメの加工特性を生かした製品や生理的機能性を生かした健康食品などの開発が望まれるところである。

コメの加工食品は,日本でも多くの種類が販売されている。20047月に開催された韓国高麗大学におけるシンポジウムにおいて,韓国の研究者は自国のコメ加工品について報告していた。日本と韓国では,かなり同じ様な食品が存在しており,食習慣にあまり違和感を感じないため,相互に新規の用途を考える参考になるであろう。

今回,タイとベトナムにおけるコメ加工品の状況を報告するに際し,コメ粉の利用とコメ麺の状況を主体にした。また,ベトナムで開発され市販されている健康栄養食品で,コメを主成分にして開発されたENALAZについても報告する。

 

2.タイにおけるコメ加工品

2・1 コメ麺−カノン・チーンKanom Jeen

バンコクからSuphan Buriに調査に行く途中,あるいはこの町の近辺ではデンプン原料として,コメのほかに,サツマイモやキャッサバ(タピオカ)が栽培されていた。タピオカデンプンは廉価であるため,コメデンプンと混合して用いられることがある。

調査の途中,バノンサラダイ小学校に立ち寄り給食風景を見学した(図1)。先生が8人程度の小規模校である。生徒はステンレスまたはプラスチック製の容器(2段ないしは3段)にご飯とおかずを入れて持参する。主食はコメである。学校の給食室では,野菜のスープを作るのみ。78名が車座になって胡坐をかいて座り,ポトラックのようにそれぞれのグループでお互いに好きなものをとって食べていた。給食室の調理室を覗くと,栄養教育のための食品群を5つに分けた絵が張ってあった。 図2に示す2群はエネルギーになる食品群で,ご飯やコメ麺が載っており,一般的によく食べられている食品であることがわかる。

                                                                                                                                                                                                          

 

 

1 タイの小学校における給食風景       図2 エネルギーになる食品群 

 

 

 

 

 

 

オープンカフェのような食堂での昼食時には,ジャスミン米が出されたが,いわゆる外米というイメージではない。また,市場で購入したコメ麺も食べてみた。これは,今回の調査で味わってみたいと思っていた,タイの伝統的な発酵麺のカノン・チーンである(図3)。そうめんの味を淡白にしたような感じで,タイ風の出し汁を付けて食べても美味しいものである。このような淡白な味のコメ麺は,日本では食べたことのないものであった。最近ではタイ人でも製造所が分かるくらい発酵中の悪臭が気になるらしく,また生麺の        3 発酵麺カノン・チーンとたれ

ため,豆腐のように1日しか保持でき

ないような衛生状態の問題もある。発酵コメ麺に注目していた理由は,味もであるが,コメ製品にアレルギーを起こすことのある日本人にとって,発酵でアレルゲンが分解されているのではないかと期待したからである。アレルゲンの有無については,さらに情報を得たい。

  カノン・チーンの製造には日数3日間もかかるし,廃液の悪臭のほかに,最大の問題は排水処理であるという。

 

2・2 コメ粉の製造

  コメ粉やコメ麺の製造工場(CHO HENG RICE VERMICELLI FACTORY Co.Ltd.)を訪問した。この会社は,応対したMike氏の中国人の曽祖父が1930年に設立したそうである。日本人のスタッフも勤務しており,お世話になった。ウルチ米のコメ粉製造を中心に,コメ粉を用いた製品を製造し,独自製品を研究開発している。職員数は1300人で24時間3交替のフル操業を行なっている。販売額は,ノーコメントであるが,売上高は安定しており,コメ粉生産量のタイにおけるシェアは30%で,世界一という。機械設備は日本製が多く,S社やA社のものを設備していた。コメ粉の製造工程を図4に示す。

製品ベースでの年間コメ使用量は610万トンで,原料のくず米として711万トン使用する。製品にするときの歩留まりは8590%になるという。デンプン製造における歩留まりは60%で,かなり低くなる。原料は,ほとんど「くず米」(タイでのindica米の精米時に10%出る)で,新米は使用しない。以前は玄米価格の50%程度であったが,現在は80%程度にまで高くなっており,価格は,8バーツ/kg(約24円)で,45バーツのものは異物の混入が多いという。

くず米は,水分の均一化と安定化を図るため,3ヶ月〜1年間,室温貯蔵するが,それより長くなると臭いが発生する。タイにもjaponica米のくず米があるが,高価であるため,日本向けの製品に使用している。               

コメ粉を輸出した日本では,モチ,和菓子,煎餅などの原料になっている。コメから作るモチには2種類あり,モチ米で製造すると高価になるが,コメ粉から製造した場合,50%の価格に            4 コメ粉の製造プロセス

なるという。コメ粉100%で日本へ

の輸出はできないため,コメの調整品として,以前は蔗糖を混合して輸出していたが,現在はコメデンプンを15%程度混合している。日本の会社は,蔗糖を分離して使用していたが,デンプン混合の場合には,その必要はない。日本への輸出に関して,ある日本企業もタイ国内で日本向けにアラレ等を製造しているとのことであった。製品の多くは,東南アジア,アメリカ,ヨーロッパへ輸出されているが,中国系の人を対象にしたものである。コメ粉は,コメの種類が異なるとマーケットも異なる。アメリカへの輸出では,コメ粉にデンプンを混合しているといわれ,価格は$600650tである。

原料のくず米の品質指定は不可能であり,混合して使用し,製品の安定化を図っている。製品によっては,タピオカデンプンをコメデンプンに混合することもある。くず米で製造したコメ粉は,輸出先の国の需要に合わせて粘度を変更するが,タイではアミロース含量の低いコメの生産量が減少し,アミロース含量が増加傾向にある。理由としては,遺伝子組み換えのコメが混ざったり,品種改良されたものの生産量が多くなったなどが考えられるが,よく分からない。また,衛生、品質管理は輸出品には必須であり,価格増加を伴うことになるため,タイ国内向けの販売には無理がある。

猫や犬などのペットフードへのコメ粉使用は高価になるため,タピオカデンプンを使用する。

 

2・3 コメ麺(Rice Vermicelli)の製造

タイ国内には,コメ麺の工場が約800箇所あるというが,ほとんどが登録していないので実態は不明である。この会社では,主にコメ粉とビーフン(乾燥コメ麺)を製造している。コメ麺をコメから直接製造すると異物が混入するため,この会社独自の方法としてはコメ粉を製造し,コメ粉からコメ麺を製造している。生麺の製造工程の概略は,次のようである。

  破砕米 ⇒ 水浸漬(1日)⇒ 洗浄 ⇒ スラリー(乳液) ⇒ 沈殿物の袋詰め

   ⇒ 圧搾(1晩)⇒ 押出し(エクストルーダー(押し出し機)から出るメンの高さ

を調整して,メンの細さを加減)⇒ 糊化(80℃温湯)⇒ 水洗浄 ⇒ 製品(生麺)

  コメ粉を販売する戦略の1つとして,30分で出来上がるというコメ粉から出発すれば,コメ粉に水を加えて捏ね,エクストルーダーにかける時間のみですむ。コメ粉であれば衛生的で安全性は高くなるがコストがかかるため,輸出用である。また,ビーフンの製造工程を図5に示す。

  メンの消費量について,国内消費は安定しないため,60%はコメ粉として輸出している。

    工場の事務所の裏に小規模の生麺製造装置があり,実際に製造したものを給食に出していた。今後は, 製造方法を変えた

       

5 ビーフンの製造プロセス

 

方が良いとの考えで,新規製品であるインスタントのカノン・チーンに徐々に取って代わられるのであろう。家庭では簡単な道具があれば細メン,太メン,幅広メンができ,小麦粉でウドンを作るより,はるかに短時間で製造可能になる(図6)。日本人にコメ麺を食べさせるには,     

伝統的方法  家庭での方法  工場での方法   好ましい食感と味付けあるいは「つゆ,

6 カノン・チーンの製造法     たれ」を開発するなど,調理(料理)方法の工夫が必要であろう。

 

2・4 新規製品の開発

この会社の研究,品質管理部門のスタッフ50名で,新規製品開発は,すべて単独で実施している。

(1)薬のカプセル助剤(EraTablet

Eraは会社のブランド名。薬の錠剤には,薬の成分あるいは薬効成分を含む動植物原料等に増量剤と固形剤を加えて成型したものがある。その固形剤の主成分としてコメデンプンを使用する目的で開発された助剤である。種々の特性を持たせるために,球状のデンプン粒にしてある(図7)。

カプセル助剤の作製はかなり困難であり,廃水処理がコメ粉製造の10倍程度   7 カプセル助剤コメ粉の電顕写真

になるという(排水処理施設:2000年に    

設置)。社員の中には,実際に調製した錠剤を所持しているも者もいた。

 

(2)付加価値を付けた開発製品−スパゲティー,マカロニ−

  コメ粉の製品はタイでは安価であり,不景気の時には売上高が増加する。景気がよくなると,パン,ケーキ,スパゲティーのような高価なものの消費が増加する傾向にあるという。マカロニは,ほぼ完成して製造されているが,スパゲティーは試験製造段階にある。パスタの色付けのため,カボチャを混合して着色している。図8に示すようなパスタを試食したが,小麦粉製品とまったく区別はつかず,食感,風味も遜色なかった。     8 コメ粉製のパスタ

                         

(3)ベビーフード,栄養バー

将来的には,さらに付加価値を付けたスナック様あるいは棒状の健康栄養食品の製造を目途としているという。

 

(4)化学修飾した米粉

粘度や耐熱性に効果を与える化学修飾したコメ粉として,架橋デンプンを製造している。リン酸デンプンや酢酸デン     9 多用途目的のコメ粉

プンも輸出している。その他に,広範囲の食品製造を目的としたコメ粉(塩など添加)を製造している(図9)。

 

(5)上昇機運にある製品

現在の人気商品は,図10に示すようなビーフンや幅広麺(コメウドン)である。新しいビーフンの開発ではコメ粉100%使用が基本である。調理するとメン同士が固着するため,糊料やデンプンを混合するが,好みは国によって異なる。例えば,マレーシア向けでは,タイ米がアミロペクチンを含み,アミロース含量が低くてメンになり難いため,コメ粉とトーモロコシデンプンとの混合比率を5050にしている。

ビーフン製造において,コメ粉100の      10 コメ粉加工食品

ビーフンの風味は最も優れているが,タ

イではジャガイモデンプンとタピオカ(キャッサバ)デンプンで製造されている。エクストルーダーの押し出し口径は0.51.0mmである。今後,春雨との差別化も大切と思われる。春雨の品質は緑豆デンプンを使用したものがよく,6070%のシェアという。

 

2・5 製品の輸出先

基本的に1つの国に偏らないようにする政策(戦略として,1国当たり15%以下)をとっている。現在の割合について,日本は10%以下,アメリカ10%以上,ヨーロッパ10%以上で,他は東南アジア(中国,香港,マレーシア,シンガポール)向けであるが,インドネシアは,現在輸入禁止されている。

日本におけるビーフン市場に関する情報は,K社のシェアが65%(糊料+デンプン)で,他にS社やT社がある。日本のビーフン市場の特徴は,関西より西で大きく,関東以北で小さい。今まで6070億円規模の市場であったものが,A社の参入により,120億円市場に拡大し,今後も需要の伸長が期待される。

 

 

3.ベトナムにおけるコメ加工品

ベトナムのコメ麺のほかに,コメなど東南アジアにおいて多収穫で低価格な食品をベースに,低開発国の栄養に寄与しうる食品開発の1つとしてENALAZの例を示す。

3・1 コメ麺−フォー(Pho

 タイにおけるコメ麺として有名なカノン・チーンと同じように,ベトナムのフォーというコメ麺に興味をもっていた。実際にホーチミン市内の食堂でPho-Boいう牛肉の入ったフォーを食べた(図11)。やや幅広のキシメンの感じで,色は真っ白で,幅広のメンを作り,切ったものであろう。近くの市場では生のコメ麺が売られており,タイのカノン・チーンに相当するものと思われた(図12)。夜は,今回訪問したホーチミン市栄養センターの前所長(現在,HCMC栄養協会会

長兼ベトナム栄養協会副会長)とENALAZやベトナムの栄養問題等について懇談しながら,ベトナム中部のフエのコメ麺を味わったが,味付けが上品でやや淡

 

11 ベトナムのコメ麺フォー          12 ベトナムのコメ麺フォー

 

 

白であった。コメ麺は北部のハノイなどと比較して,三者三様であるとのことである。メン製造用の最適米があるようである。

コメ製品としては,ライスペーパーも有名である。伝統的な製造法は,料理書などに掲載されているように,湯を沸かした鍋の上にコメ汁を均一に撒けるようなざるなど置き,蒸気で30秒程度蒸して作るようである。          

 

 

3・2 ENALAZ

ENALAZは,ホーチミン市の子ども栄養センター(現栄養センター)で開発されたコメやダイズを主成分とし,幼児,子ども,老人,患者等に摂取させる目的の健康栄養食品である。図13に製品の写真を示す。そこには,日本やアメリカに留学した研究者が多く在籍し,研究や教育活動に従事している。

ENALAZの製造は,1社に任せているという。この会社は現在,工場の建て直しで工事中とのことで,製造現場を見ることができなかった。センターの販売所では売切れており,市内のスーパーに行っても在庫がなかった。朝9時過ぎに訪問したとき,販売所には多くの人が並んでおり,他の栄養食品を購入していた。最近,ベトナムでも都会では,肥満防止のための栄養指導が必要になってきたという。コメ麺はGIglycemic index)が低いため,肥満防止にはよいのだそうである。           13 ホーチミン市の健康栄養食品ENALAZ

GIとは,糖質を含む食品を摂  

取すると血糖値があがり,インスリンを必要とするようになる。血糖値をあげ難い食品を食べると,結果としてインスリンの必要量が少なくなる。このように,ブドウ糖を100として,糖質食品を摂取した時の血糖値の上がる度合いを比較したものがGIである。糖尿病予防の点からも,GIの低い食品摂取が望まれており,GIに配慮した食品開発が必要になろう。

ENALAZの問題点としては,shelf lifeは窒素下,室温保存で約9ヶ月,空気下では約4ヶ月と短く,製品の溶解度が悪くなることである。溶解度は他の外国製品に比較して良くないという。そのため,自国技術を向上させ,情報を集めて溶解度の解決に当たりたいとのこと。特に溶解度が問題となるのは,患者の栄養補給のため,直接胃の中に経管投与するときに重要な要因になるためである。

 

 

 

(1)原料組成

原料は基本的にベトナム国内で生産される農産物を使用しており,その組成を表1に示す。ENALAZ2には,スピルリナとメチオニンを含まないが,タンパク質含量は高くなっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

1 ENALAZの原料組成

 

ENALAZ

ENALAZ 2

Rice

soya bean         

red (or yellow) sweet potato

white sesame      

malt

spirulina algae    

iodine salt         

methionine

vanilla flavor      

β-carotene

CaCO3

sugar

milk protein       

vegetable fat powder 

62.6

19.2

5.4

4.6

6.5

0.83

0.3

0.1

0.2

0.2

58.4

27.0

5.0

3.1

5.7

0.3

0.2

0.21mg%

0.2

 

 

 

 

(2)製造方法

製造法は比較的簡単である。主原料を混合して,エクストルーダーにかけ,押し出して加工し,粉砕して粉末化する。これに,麦芽,ミネラル,ビタミン等を添加して混合し,1包装当たり250gにして製品とする。ENALAZ1,2の他に,ENALAZ plusがあるが,組成はほとんど同じである。高栄養を必要とするスポーツマンが利用したり,企業内給食に利用しているという。

 

 

 

(3)栄養成分組成

 栄養素組成を表2に示す。数値は,100g当たりである。

            

 

 

 

 

2 ENALAZの栄養成分組成

 

ENALAZ 1

ENALAZ 2

Energy   Kcal

400

405

Protein     g

15

20

Fat         g

8.0

9.5

    MCT      %fat

20.0

28.0

  ・Linoleic acid   mg

1850

860

  ・Linolenic acid  mg

30

150

Carbohydrate           g

67

60

Dietary fiber          g

3.0

3.0

Vitamin A            IU

1330

1440

Vitamin C            mg

30

30

Vitamin B1          μg

300

170

Vitamin B2          μg

400

400

Flavonoids(V-P)      mg

3.9

3.9

Folic acid          μg

30

30

Na                  mg

230

250

K                   mg

320

380

Ca                  mg

300

300

Fe                  mg

4.5

4.5

P                   mg

180

180

I                   μg

40

40

Mg                  mg

50

40

Cu                 μg

290

260

Cl                  mg

250

250

 

 

 

(4)アミノ酸組成

 ENALAZを塩酸で加水分解した試料と,トリプトファンを定量するために水酸化バリウムで加水分解した試料について,アミノ酸分析した結果を表3に示す。

 

 

 

 

             3  ENALAZ 1のアミノ酸組成

アミノ酸

mg/100g

 

アミノ酸

mg/100g

Asp

1265

 

Leu

2063

Thr

455

 

Tyr

323

Ser

572

 

Phe

606

Glu

2767

 

b-Ala

5

Pro

1284

 

GABA

5

Gly

527

 

His

246

Ala

699

 

Tr

572

Val

971

 

Lys

815

Met

71

 

Amm

339

Ile

322

 

Arg

878

 

総計

 

 

14782

 

(5)用途

 ENALAZは通常,経口摂取するが,患者によっては経管補給を行なっている。その用途を表4に示す。

                4 ENALAZの用途

●体重増加を必要とする人

  栄養失調の子ども,大人

  老人で消化力が弱く,咀嚼や嚥下が困難な人

●エネルギー供給を多く必要とする人

  成長期の子ども,青少年

  妊娠期及び授乳期の女性

  アマテュア及びプロの運動選手

●治療中に栄養を必要とする人

  栄養補給の必要な患者(手術前後,やけど, 外傷性傷害, ストレスなど)

  経管栄養補給の必要な患者

     

(6)使用方法

  飲み方は,250gに温湯900mlの割合で加え,攪拌して摂取する。通常,1日に0.51箱(250g)を3回に分けて摂取することを推奨している。

2004年の月平均の利用実績は,病院数が51,延べ患者数が6265人であり,その包装の基本単位である1250g入りに換算して,利用袋数は19301であった。ENALAZ1が2.06トン,ENALAZ22.74トンで,計4.8トン/月となる

 

(7)ベトナムでの栄養問題

各研究室を訪問して伺った話である。

食塩にはヨウ素を強化しており,50%の国民が利用しているという。ベトナム人は海草類を食べないらしく,ヨウ素不足が生じるためである。種々の食品についてもヨウ素を分析している。

リジンを強化したコメ粉が製造されている。原料は,コメにダイズ,緑豆green bean,少量の麦芽粉を加え,チキンフレーバーを付けたものである。製造法はENALAZと同じという。

○DHAやリジンを強化した粉乳も製造されている。

その他,目的に応じた製品,妊婦にはFe強化,中年女性にはCa強化,食物繊維強化なども製造されている。 

地域栄養部門では,ホーチミン市での肥満問題のことを心配している。都市部以外では,現在でも栄養失調・不足の問題がある。食品成分表については,日本への留学生を中心に,市販食品のものを作成していた。

胚芽/玄米の利用に関して,コメの栄養性を最高度に利用することが必須であるとの認識はあるが,GABAに関する認識は,未だ低いようであった。

○ENALAZについての最大の問題は,その溶解性であるという。脂質の酸化防止の方法についても問題視していた。Agelessの利用については,価格との折り合いがあるようである。

  ENALAZのようなコメを主原料とする健康栄養食品が,ベトナム以外の栄養問題を抱える国で利用されることは,望ましいことである。経済的に豊かになっても,栄養問題の歪みは必ず現出するものであり,それぞれの国で望ましい形態の食品加工がなされれば需要が見込まれるであろう。 

 

4.コメ製品の発展する可能性はあるか

  コメを多量に食べて,必要なタンパク質を満足させていた時代から,コメ不足の時代に安価な外国製品としての小麦を導入し,パンに代表される欧米型の肉中心の食生活へと変化してきた「つけ」が,今のコメ問題の発端であろう。日本的な製品である煎餅にしても,スナック菓子に変遷して,高価なコメを原料としなくても小麦と安価なコメ以外のデンプンで加工され,何不自由のない生活が成り立っている。

 コメの消費拡大とは,安い糖質原料である小麦やトーモロコシに如何にして打ち勝つかということであり,本来のコメ製品に進出した小麦粉製品などに勝る加工食品や加工原料を製造することが先決となろう。東南アジアの調査研究において,コメの占める位置の大きさに考えさせられるものがあった。翻って,日本ではトーモロコシを1600万トンも輸入し,世界の全輸入量の24%を占めている。われわれが飼料に使う穀物が,他の国では主食であることも認識しなければならない。このような歪んだ状態は時間をかけて修正していく必要がある。家畜飼料にコメが使えないのは,栄養問題ではなく,価格の問題である。

 コメの良さを皆に知ってもらうこと。今回の調査研究に関連して感じたことを述べる。

(1)コメ麺の良さの認識を広める

東南アジアにはコメ麺が広く分布しているが,美味しく,安全に食べ続けられることが大切である。食習慣は徐々に変化するであろうが,その中で,タイの工場で開発されたパスタやスパゲティーの形態と食感は,受け入れられるであろう。経済的に落ち込んだときには,安価なコメ麺を食べ,懐が豊かになると,少し高級感のあるパスタを食べるようになるそうで,いずれにしてもコメ原料に代わりはないということにならないか。これが,小麦粉製品を超えられるか,品質と価格競争にかかっている。

インスタントラーメンのだしは美味しくなっていても,メン自体のコシのなさと独特の味に対し,コメ麺は超えられるであろう。和風のすき焼き汁にはビーフンや春雨が合うが,ラーメンは合わない。コメ麺とラーメンには共通する部分と相容れない部分があると思われる。少なくとも,共通する部分ではコメは競争に負けている。しかし,コメと醤油の相性はいいため,味わいの差別化を利用することが大切なのではないか。

 

(2)栄養面での宣伝戦略

厚生労働省の患者調査によると,継続的に治療している糖尿病患者数は約230万人で,年々8%程度の増加率である。受診していない人を加えると,約600万人を超えると考えられている。透析患者も糖尿病腎炎の人が多くなっている。食事をするときには,これからglycemic indexに配慮することが重要になる。タンパク質の栄養価で小麦やトーモロコシより優れたコメを利用する分野が増えるかもしれない。玄米や発芽玄米はGABAγ-アミノ酪酸)を多く含み,糖尿病の予防に効果があるため,健康,栄養面からのコメの良さの普及が望まれる。

 

(3)コメ麺の日本での普及

  島根県の小学校の学校給食にコメ麺が出されたという(2005.2.18.:山陰中央テレビ)。地産地消(スローフーズ運動),コメ文化の確認,地域産業の主体である農業,コメ生産の維持と新産業の創出などが背景にある。また,旭川の学校給食で「コメの入ったラーメン」を食べた生徒は,美味しさに変りはなく驚いていたという(2005.2.24.NHK)。また,春雨のヌードルが市場に出たようである。春雨は良質のものは緑豆デンプンが原料であるが,デンプン春雨は,ジャガイモやサツマイモデンプンを原料にしている。いつの日か,ビーフンのヌードルもインスタント食品として食べられることであろう。

子どもにとっても,中華麺とは違うが,「コメ麺はもちもち感があって美味しい」というように,味付けによって美味しく食べられるので,価格もあまり変わらない,太さがいろいろのタイプを開発し,美味しさ,食べやすさの比較を試みては如何であろうか。

現在,原料米としてはアミロース含量の多いindica米が主である。日本でコメ麺の適正米の開発には長時間要するであろうから,コメ粉にした段階で適切なjaponica米を選択して混合できないであろうか。しかし,indica米とjaponica米のどちらが有利かは,食品工学技術で克服できるであろう。

  コメ麺の製造方法は,中華麺に比較してきわめて簡単で経費も安くつくはずである。味が淡白であるため,調理によって好みの味付け,薄味で美味しい料理が開発できる。また,逆に味付け麺を開発し,スナック菓子にしたり,湯を入れるだけで食べられるインスタント化が図れる。栄養面から考えれば,玄米を使用したメンの開発も可能である。図14は,タイで市販されている玄米製のコメ麺(茶色),コメスティック(白色)      14 タイの玄米製のビーフン

(日本の冷麦に相当?),乾燥したカノ

ン・チーン(箱入り)を示す。

   小麦粉製品の代表であるパンに関しても,従来のグルテンを入れたコメパンから,コメ粉100%のコメパンが製造されるようになった。コメデンプンの分子量の差異を利用して機能性を見直したといわれているが,小麦粉に特有のグルテンの性質を,コメのみで代替を可能にした。コメパンの切り口はgluten-freeがポイント。

ホーチミン市のホテルで日本のBS放送を見ていたとき,料理研究家の辰巳芳子さんが「玄米スープ」のことを話していた。栄養成分が白米に比較してよいし,美味しいもの。最近では発芽玄米に含まれるGABAの機能性が明らかにされてきているため,玄米を使用したコメ加工食品の開発にも力点を置く必要がある。