発芽玄米の魅力とコメ消費拡大への貢献

 

信州大学     茅原 紘

 

1. 発芽玄米の魅力

 中国の伝統的な思想である「返璞帰真」(ファンプークイジェン)、この四文字の意味は日本語の「原点回帰」に相当し、主食革命の方向性を如実に示している。つまり、3000年以上も主食であった玄米の白米化により、ガン、糖尿病をはじめとする各種生活習慣病の急増と体力の減少をもたらしたことは明らかである。21世紀もすでにスタートしており、この際、思いきって主食を白米から玄米に戻すことにより、生活習慣病の予防・軽減化を目指したいものである。

 玄米が体によいということは昔から知られており、「玄米菜食」が理想に近い食事形態であることは、かの有名な宮澤賢治の「一日ニ 玄米四合ト 味噌ト 少シノ野菜ヲ食べーーー」の言葉を借りるまでもない。ところが、玄米は普通の炊飯器で炊きにくい、ぼそぼそ感がある、消化がよくない、高級感がないなどのため、玄米を主食にしている日本人はほんの一握りである。

 ところが、本プロジェクトの代表である伊東正一教授から届いている米国のコメ消費の現状をみると、米国で発表されたダイエットの新ガイドラインの中で強調されているのが、「ホールグレインを食べよう!」つまり、磨いていない玄米や玄麦などで作られたものを食べよう、という意味であり、これは冒頭に記した中国の伝統的な思想と一致する。そして、米国コメ連合会の報告によると、米国での白米の消費が6%減ったが、玄米の消費が20%も増加したとのことである。さらにうれしいことは、伊東教授のコメント、「新ダイエットガイドラインと発芽玄米はうまくマッチし、マーケットとしての潜在性が非常に大きい」である。

 玄米のよさを如実に物語っている例を一つ引用しておく。昭和17年に発行された「医界週報」(ドーマー樺ヒ原菊一社長が入手)という医学専門誌に掲載された伝染病研究所からの「玄米主食化が農村民の生活に及ぼした影響について」という報告は、集団的玄米食化を試みた山形県北村山郡小田島村大字野田字北部落(当時)における27家族186名の生活調査結果である。結論のみを引用すると、@仕事の耐久力の向上率は全数の44%で認められ、耐久力を保持するものは100%、A田植え時の突き指、稲刈り時の手首の関節炎が完全に止まった、B医療費は白米時代の17分の1に激減、C流行性感冒に罹りにくくなった者97%、常習性下痢は100%改善、D女性の生理が順調、不妊解消例も発生である。この報告例は玄米食がいかに優れた食材であるかを実証している。

 玄米を食べやすくして、栄養的価値をさらに高めたコメが「発芽玄米」である。これは玄米を水に浸し(約32℃、22時間)、0.5〜1mm程度発芽させたものである。

 稲作の技術が中国から日本に伝来した縄文時代前後の人々が生活の知恵として、硬い玄米を経験的にぬるま湯に一昼夜漬けると、ふっくらとやわらかく、しかもおいしく炊けるということをすでに知っていた史実がある。発芽玄米という名称こそなかったが、決してニューフェイスではなく、正しい米飯のリバイバルとして21世紀の直前にこの世に登場させたのが、前述のドーマー樺ヒ原菊一社長である。

発芽玄米の特徴としては、@玄米にもともと含まれている優れた成分が軒並み増加する(とくにギャバ)、A玄米に含まれていても、ブロックされていて、すぐには効果が発揮できにくい成分(たとえば、ミネラルとフィチン酸の関係)が酵素の作用を受けてブロックがはずれ、本来の生理活性を発揮する、B玄米にはほとんど含まれていない成分が増加する(たとえば、アルツハイマー型認知症の予防・改善が期待される成分)、などである。

 

2. 発芽玄米中の主な有効成分とその効能

n       ギャバ(γ―アミノ酪酸):ギャバは動物や植物など自然界に広く分布するアミノ酸の一種であり、玄米が発芽条件下で、それまで玄米中に休眠していたグルタミン酸脱炭酸酵素が働きだし、グルタミン酸が徐々にギャバに変換され、玄米の約3倍に増加する。白米と比べれば約10倍となる。ギャバはマイナスの神経伝達物質として脳や脊髄に多く含まれており、減少するとすぐカッとなり、キレやすく、精神不安定な状態になる。また、更年期障害、自律神経失調症、血管型認知症、中性脂肪の増加、血圧上昇などを誘発することが認められている。

n       食物繊維:玄米を少し発芽させると、食物繊維は1015%も増加する。食物繊維には水溶性と不溶性があり、発芽玄米には両者ともバランスよく含まれている。不溶性の食物繊維は体内で水分を吸収すると膨張し、便は柔らかくなり、かさが増して腸壁を刺激することにより、腸の蠕動運動が活発となって、排便がよくなる。発芽玄米を食べ始めて、最初に効果が現れるのが便秘解消である。一方、水溶性の食物繊維はブドウ糖の吸収を穏やかにして食後の血糖値の急激な上昇を防ぎ、コレステロールの吸収も抑えるので、動脈硬化の予防にも役立ち、生活習慣病の予防・改善が期待できる。

n       IP(イノシトールヘキサホスフェート、別名:フィチン酸):イノシトール(生体の健康維持に不可欠な栄養素)という糖にリン酸が6個結合した物質であり、穀類、特にコメや小麦に多く含まれていて、玄米中では糠と胚芽に多い。米国メリーランド大学の研究によると、コメおよびコメ糠に含まれるIPは強力な抗ガン作用(乳ガン、肺ガン、肝ガン、皮膚ガン)が確認され、結石の再発防止、心筋梗塞や糖尿病予防、満腹中枢に働きかけて過食を防止するなどが明らかになった。玄米中ではIPはミネラルと結合しており、本来の効力が発揮できにくい状態で存在しているが、発芽条件下では酵素の働きによりそれぞれが遊離し、かつリン酸が徐々に脱離し、IPファミリーが形成されて各種生理活性が発現されると言われている。

n       PEP(プロリルエンドペプチダーゼ)活性阻害剤:白米および玄米中には極微量しか存在しないが、発芽玄米中に新たに産生される成分の一つとして、PEP活性阻害剤がある。これは、ドーマー社と私たちの共同研究で見い出され、ドーマー鰍ゥらすでに特許を取得している。PEPという酵素は脳機能を正常に保つ各種有用なペプチド(アミノ酸が数珠つなぎになった物質の総称)の新陳代謝に深く関わっており、通常、脳内に適量存在している。しかし、不幸にしてアルツハイマー型認知症に罹った患者の脳には、原因は不明のようであるが、PEPが過剰に存在するという報告がある。そして過剰な分、有用なペプチドが必要以上に分解されて、再合成される際の材料が不足することにより、有用なペプチドの量が減少する。その結果、脳機能がかく乱されて認知症状を誘発させると考えられている。アルツハイマー型認知症の原因は他にも種々報告されているが、もし、この過剰なPEPの活性を抑えることができれば、アルツハイマー型認知症の予防・軽減化が期待できる可能性がある。

最近になって、発芽玄米を主食に取り入れた病院や施設で、それまでは笑顔も見せなかった患者さんに笑顔がよみがえったといううれしい報告もある。

 発芽玄米には上記のほかにも有用な物質が沢山見い出されており、主食を白米から発芽玄米に切り替えることで、発芽玄米のよさを享受し、健康生活の維持・増進、さらには生活の質(QOL)の向上をはかることができるだろう。

 

3. 発芽玄米関連記事

コメ消費拡大運動(海外編)

@       フィリピン科学技術省主催シンポジウム(フィリピン,マニラ)200426日:

Fantastic Germinated Foods----Germinated Brown Rice and Sprouted Foods

A       Thailand Rice Convention 2004(IMPACT Exhibition Center, Thailand, Bangkok)

2004526日:「Fantastic Germinated Brown Rice

B       中国ハルピン医科大学生活習慣病学講座主催シンポジウム(中国,ハルピン)

2004610日:「21世紀の主食革命の主役,発芽玄米―――生活習慣病の予防を目指して」

C       日韓国際コメ消費拡大会議(韓国,ソウル)2004722日:「驚異の発芽玄米」

D       21世紀の人類と健康フォーラム・北京2004(中国,北京)20041024日:

主題:食治で生活習慣病を防ごう「主食革命の主役は発芽玄米,生活習慣病の予防を目指して」

  コメ消費拡大運動(国内編)

@       長野県公民館運営協議会主催(長野県,伊那市)2004512日:「食の革命で

ピンピンコロリの人生を!」

A       信州大学農学部同窓会東京支部総会(東京)2004619日:「発芽食品でピン

ピンコロリの人生を!」

B       コメ国際シンポジウム2004信州大会(長野県,上田市)2004820日:「21

世紀の主食・発芽玄米」

C       長野県南安曇郡社会教育懇談会主催(長野県,三郷村)2004922日:「食の

革命でピンピンコロリの人生を!」

D       機能性高分子材料研究会主催(長野県,信州大学繊維学部)2004924日:

21世紀の主食・発芽玄米」

E       日本農芸化学会・信州大学農学部主催,食品バイオサイエンスの世界(長野県,

信州大学農学部)2004109日:「発芽食品(スプラウト食品)でピンピン

コロリの人生を!!」

F       食育と健抗フォーラム・青森(青森県立大学)20041016日:「主食をひとひ

練り、副食をふたひねり」

G       長野県伊那市美すず上大島公民館主催(長野県,伊那市)20041121日:

「発芽食品でピンピンコロリの人生を!」

H       まほら伊那市民大学講座(長野県伊那市主催)20041130日:「発芽食品で

生活習慣病予防を!」

I       薬膳協会主催(東京)20041219日:「見てきた中国・北京,ハルピン 現代

食事情」

  健康雑誌・会報・テレビ等を媒体

  @ 「わかさ」20044月号:{食欲を抑える新成分や脂肪を減らすギャバの宝庫「発芽玄米」は今評判の体型若返り食:発芽玄米は100%炊きで食べれば減量効果が高まり実験では7日で2.4キロやせた}

  A 「わかさ」20044月号:{なんとご飯で便秘・肌荒れ・肥満から高血圧・血糖値まで治る全く新しい食べ方「第4の秘訣は白米より栄養豊富な玄米に替えることで食べやすい「発芽玄米」が今人気}{発芽玄米には血圧を下げ,イライラをしずめる成分{ギャバ}が多く,白米のなんと10倍}

  B 「Health Tribune20046月号:{焦点特集「驚くべし,発芽玄米は命の源だった」}

C 「開花」20048月号:{若さあふれる老化知らずのこの7人が明かす私の若返り      の妙薬初公開――半年で体重が8キロ減ったばかりか肌も若返った63歳の大学教授の秘密兵器は「発芽玄米」

D 「サンデー毎日」200481日号:{血圧降下にGABA

E 信州大学同窓会報「ゆりの木通信」200412月{発芽食品(スプラウト食品)でピンピンコロリの人生を!} 

F 埼玉県学校給食会報 20051月{21世紀の主食・発芽玄米――青少年の健脳を目指して}

G     信越テレビ2005212日「信州大学放送公開講座――食と健康〜信州の風土が生んだ豊かな食材」{発芽食品}