米国における短粒種米の小売価格と均衡関税率について
笠原浩三 鳥取大学農学部
1.はじめに
新食糧法(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律),及び新農業基本法(食料,農業,農村基本法)に引き続き,中山間地直接所得保障制度の実施等,近年の農業を取り巻く環境は大きく変貌している。これまで日本政府は,1粒たりとも輸入を許さないという生産者団体の強い意向を受けて,ガット(GATT)ウルグアイラウンドの基本姿勢では徹底したコメ輸入自由化反対を貫いてきた。しかし,1998年秋に突然コメ関税化案が議論され,1999年4月からは急遽コメの輸入関税制度が導入されるに及んでいる。これは,ミニマムアクセス米を継続して輸入した場合と,関税化を受け入れた場合とを比較して,関税化を受け入れた方がむしろ有利であるとの判断に基づくものであった。勿論その効果は関税制度の中で設定される関税率の水準そのものによって直接影響を受ける。関税率によって設定される関税障壁が効果を生むかどうかはその大きさ次第である。急遽導入した輸入関税制度の成否は設定される関税率との関係において検討される。このような問題意識に立ち,本ジャポニカ米研究会においても関税制度によって設けられる関税障壁の効果などについて分析を行った(注1)。しかし,それにはアンケート調査結果の推計価格自体の分散が大きく安定性に欠けるという課題が残されていた。
そこで本稿では,米西海岸における主要都市で実際に販売されている市場価格の実態調査に基づき,コメ小売価格の均衡化を条件に推計される均衡関税率について分析し,コメ関税制度に基づく関税障壁の効果について考察するものである。
(注1)本ジャポニカ米研究グループの代表者である伊東氏は,1999年3月6日「第6回ジャポニカ米・国際学術調査報告会及びシンポジウム」,及び文献[1,2,3]において,米国から直接持ち帰ったカリフォルニア米について,試食会を行いそのアンケート調査から得られた推定価格に基づいて関税障壁の効果を考察している。しかし,それはアンケート調査結果の平均価格を用いてはいるものの,推計価格自体の分散が大きく安定性に欠けるという課題が残されていた。
2.短粒種ジャポニカ米の調査対象都市と流通概要
今回の米国におけるジャポニカ米の調査地はカリフォルニア州のロスアンゼルス,アリゾナ州のフェニックス,フラッグスタッフ,及び一部ワシントン州のシアトルの4都市である。ロスアンゼルスは米国最大の短粒種ジャポニカ米の生産地帯であるサクラメントに隣接する穀倉地帯の南端にあり,日系人の多いロスアンゼルスはジャポニカ米の需要も多く,流通が盛んである。一方,アリゾナ州はサクラメントの穀倉地帯の南端と近い距離にはあるが,ロッキー山脈の南端に位置し,砂利砂漠に覆われた乾燥地帯で米の生産は殆ど行われていない。アリゾナ州はカリフォルニア州に隣接はしているものの,コメの流通においてはロスアンゼルスと好対照的な地域といえる。
3州における小売価格調査対象都市及び対象店舗は次の7店舗である。
@ロスアンゼルス市: MITUWA(ロスアンゼルス市内の以前のYAOHAN店),
ENBUN MARKET(LITTLE東京に隣接しているスーパー)
Aアリゾナ州の主要都市における調査対象店舗
BASHAS’店(KINGMAN−国道40号線沿)
FRED NEYER店(PHOENIX-国道10号線と17号線の交差する近く)
FOOD CITY店(PHOENIX-国道10号線沿)
SAFE WAY店(FLAGSTAFF-180号線と国道40号線の交差する近く)
Bワシントン州シアトル市
SAFE WAY店(CIATL市郊外国道5号線沿)
調査対象店舗について,店舗施設の大きさ,駐車場の有無・設備,品揃えの充実,展示商品の量的充実,レジカウンターの数,主要道路からの距離,関連店舗の条件,交通・道路条件などの諸観点を整理し考察したが,これらに基づいて本報告では調査店舗を次のように3ランクに分類した。
○小型調査対象店舗
ENBUN MARKET(LOS ANGELS)
○中型調査対象店舗
BASHAS’店(KINGMAN)
FOOD CITY店(PHOENIX)
○大型調査対象店舗
MITUWA店(LOS ANGELS市内)
FRED NEYER店(PHOENIX)
SAFE WAY店(FLAGSTAFF及びCIATL市内の2店舗)
3.米国内の小売価格調査の集約
今回行った米国西海岸都市に立地するジャポニカ米販売店における小売価格の調査結果をまとめると,第1〜第3表のとおりである。これによると,ロスアンゼルスは米国西海岸の最大都市であり,日系人による需要と共に,ジャポニカ米の生産地帯であるサクラメントに隣接する穀倉地帯を背景に,短粒種ジャポニカ米の流通が盛んで,取扱品目も多いことが分かる。一方,アリゾナ州はコロラド川を隔ててカリフォルニアと隣接しているにもかかわらず,自然立地条件はカリフォルニア州とは大きく異なり,コメ流通に関しても大きく違ってくる。すなわち、長粒種の販売が多く,短粒種の流通は少ない,スーパーによっては全く短粒種が取り扱われていないこともある。
しかしロスアンゼルス市内のスーパーでは,特に日本人の多く居住しているリトル東京に隣接している小型マーケットでは取扱銘柄も多く,小売価格にも大きな価格幅が見られる。特にNishiki,及びGold tamakiについてはかなり高く,一般的なShirakiku,Botanなどと比較しておよそ2倍に近い価格で販売されている(注2)。
ここでわれわれは,先に行っている米国主要都市におけるジャポニカ米の小売価格調査結果をも参考に(注3),これらの銘柄米について次のように高価格良質米をA,それ以外の銘柄米をBとして次のようにランク分けを行うこととする。
Aランク米:Gold tamaki, Kokuho koda, Nishiki
Bランク米:Shirakiku, Botan, Hikari, New rose, Akita otome,
Kokuho nomura, Calrose rice,
ニコニコ米
さらに,米国内販売小売価格はポンドをkg換算し,均衡関税率は10kgを22.046LBとして算出した。
(注2)われわれは現地でGold tamaki米を購入し,試食を行った。はじめは水分不足の調整に失敗したが,炊飯の説明書に従って炊飯したところ,極めて美味しいご飯を炊くことができた。一般的に日本国内のやや上位にランクされているきらら397等と比較して全く劣らない食味を確認することができた。
(注3)先の米国主要都市におけるジャポニカ米の小売価格調査結果(第8回ジャポニカ米・国際学術調査報告会及びシンポジウム−2000年3月)をも参考に,ランクを設定した。因みに同調査報告では現地の小売価格調査に基づいて次のようにランク区分を行った。
Aランク米:国宝ローズ国府田米,コシヒカリ,ヒカリ,田牧米,秋田こまち・おとめなど.
Bランク米:国宝ローズ(ピンク,イエロー),錦,ボタン(キャルローズ・ライス),菊,
白菊(キャルローズ・ライス)など.
第1表 ロスアンゼルス市内コメ小売価格
単位:$
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( ENBUN MARKET 店) ( MITUWA 店)
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(LB) 5 10 20 22.046 5 10 20 22.046
(kg) 2.26 4.53 9.06 10.0 2.26 4.53 9.06
10.0
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Shirakiku 2.59 4.59 6.69
7.37 2.99
4.99 7.99 8.81
B Botan
2.69 5.09 6.79 7.48 - 5.99 9.49
10.46
ラ Hikari
- 5.79 9.69 10.68 - - 9.99 11.01
ン New
rose - 5.69 9.49 10.46 - 6.49 9.49
10.46
ク Tamaki
-
- 11.99 13.21 - - - -
米 Akita otome - - 11.99 13.21 - - - -
Kokuho nomura - - 10.59 11.67 - - - -
Aラ Nishiki 3.79 6.59 10.49 11.56
4.29 7.99 12.99 14.31
ンク
Kokuho koda - - 12.99 14.31 - - - -
米 Gold
tamaki 4.89 9.49 16.99 18.72 5.99 - 18.99 20.93
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平均価格 3.49 6.20 10.77 11.86 4.42 6.36
11.49 12.66
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注) 実際の販売単位は5,10,20LBであるが,22.046LB(10kg)は20LB売りを基礎に比例換
算したものである.また、ゴシック部分は均衡関税率算定に使用した価格である.
第2表 アリゾナ・シアトルの短粒種米の小売価格 単位:$
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(LB) 5 10 20 22.046
(kg) 2.26 4.53 9.06 10.0
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BASHAS' 店 (KINGMAN)
Botan 3.65 6.99 8.99 9.91*
Nishiki
5.69 -
- -
FRED MEYER 店 (PHONIX)
Botan 2.99 - - -
Nishiki 4.99 - - -
ニコニコ米 3.79 - - -
SAFE WAY 店 (CIATL)-A
Carose rice 2.19 - - -
ニコニコ米 2.89 4.99 8.49 9.36*
SAFE WAY 店 (CIATL)-B
Carose rice 2.19 3.99 6.79 7.48*
ニコニコ米 2.99 4.99 8.49 9.36*
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平均価格
3.48
5.24
6.19
9.02
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注) *は20LB売りを単純に10kg売りに比例換算したもの.
第3表 アリゾナの中粒種米の小売価格
単位:$
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(LB) 1 2
3 22.046
(kg)
0.453
0.907
1.36 10.0
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SAFE WAY 店 (FRAGSTAFF)
Medium grain
0.69
1.29 -
14.22*
FOOD CITY 店 (PHOENIX)
Medium grain
-
- 2.39 17.56**
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平均価格
0.69
1.29
2.39 15.89
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注) *は2LB売りを単純に10kg売りに比例換算したもの.**は3LB売りを単純に
10kg売りに比例換算したものである.
4.日本国内のコメの小売価格
本稿では日米間の小売価格の均衡を条件に均衡関税率を分析することから,両国における小売価格の現状を把握することが必要である。そこで日本国内における小売価格については,鳥取市内の量販店を対象に小売価格の実態を把握することとした。2001年1月に調査した結果をまとめると第4表のようになる。
ここでは鳥取県鳥取市内に立地するジャスコ鳥取店を調査対象として,同量販店で取り扱われている数品目についてとりまとめた。われわれの先の2000年の調査によると,販売店間の価格格差は比較的大きいものであった。参考までに第5〜第6表に示した。かくして,日本の小売価格については価格格差を平均化することなく特定量販店の一定の販売単位別の価格として設定することとする。すなわち,量販店はジャスコ鳥取店の販売単位は10kg当たりとする。ただし三重県産こしひかりについては10kg当たりの販売単位を取り扱っていないことから,5kg販売単位を10kg販売単位に換算して使用することとした。
第4表 日本におけるコメの小売価格−その1 単位:円
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5kg 10kg
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鳥取こしひかり 1980 3480(3960)
あきたこまちり 2298 2980(4596)
きらら397
2280 2980(4560)
三重県こしひかり
1980 -
(3960)
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注1) 2001年1月調査.鳥取市内量販店ジャスコ店.
2) ()内は5kg売りを単純に2倍して10kg売りに換算したもの.
3) ゴシックは均衡関税率算定に使用した価格である.
第5表 日本におけるコメの小売価格−その2 単位:円
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2kg
5kg 10kg
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鳥取こしひかり 980 2340 4280
秋田こまち 980
2298 3980
新潟こしひかり 1180 2798 4380
魚沼産米 - 3580 (7160)
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注1) 2000年3月「第8回ジャポニカ米・国際学術調査報告会及び
シンポジウム−」における鳥取市内のコメ小売価格.
2) ()内は5kg売りを単純に2倍して10kg売りに換算したもの.
3) ゴシックは均衡関税率算定に使用した価格である.
第6表 鳥取市内ジャスコ店とダイエー店の価格格差
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2kg 5kg 10kg
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平 均 値(円) 1026.5 2449.5 4667.1
標準偏差(円) 90.86 199.56 467.42
変動係数(%) 8.85 8.15 10.02
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注) 2000年3月「第8回ジャポニカ米・国際学術調査報告会及び
シンポジウム−」における鳥取市内のコメ小売価格の分散値.
5.小売価格均衡条件下の関税率推計モデル試算
1)小売価格均衡の関税率推計モデル
小売価格均衡条件下の関税率推計モデルを整理したものが第7表である。すなわち均衡関税率は最終的に次の算出式によることとなる。この算出式によれば輸出入両国間の末端小売価格と輸入相手国からの海上輸送費を与えてやると,両国内の小売価格の均衡を条件とする関税率が求められることとなる。
小売価格は小売店ごとに異なっており,どの小売価格を利用するかによって均衡関税率は異なってくる。本稿では現地調査の結果から得られた,個々の素小売価格を使用し,敢えて平均価格や販売単位調整などを施さないこととする。
◎ 日米間の均衡関税率モデル式
β=Y-93.998839X-115.3077t-832
ただし,βは均衡関税率(単位:円/10kg)
Xは米国現地小売末端価格(単位:$/10kg)
Yは日本国内小売末端価格(単位:円/10kg)
tは米国からの海上輸送費(単位:$/10kg)である。
ここで,具体的に小売価格を代入し均衡関税率を試算してみよう。
【米国産の Shirakiku と日本産米の鳥取こしひかりを均衡させた場合】
上式の日米間の均衡関税率モデル式において,米国産米をロスアンゼルスのENBUN MARKET店で販売されている Shirakikuの小売価格(7.37/10kg,換算$建て)とし,日本産米を第5表の鳥取こしひかりの小売価格(3480円/10kg)として試算すると次のようになる。
β=Y-93.998839X-115.3077t-832
=3480-93.998839*7.37-115.3077*.5-832
=1897.57(円/10kg)
ここでさらに,第8表によりこの関税率を従価税に変換すると,次のようになる。
(イ)日本産鳥取こしひかり小売価格X(¥) :Y=3480
(ロ)従量税の場合の均衡関税β※(円/10kg):Y-93.998839*X-115.3077t-832=1897.57
(ハ)従価税に変換した均衡関税率:α※(%):β※/(93.998839X+115.3077t)=252.86
各種推計関税のまとめ
(1)Shirakiku米の従量税351.17円/kgを従価税に変換した関税率%:α=467.96%
(2)均衡式に基づく従量税による均衡関税率β※(円/10kg):β※=1897.57円/10kg
(3)均衡従量税β※を従価税に変換した関税率%:α※=252.86%
すなわち,初年度に導入された従量税351.17円/kgを変換した従価税変換関税率αは:α=467.96%となり,また,従量税による均衡関税率β※は:β※=189.757円/kg
となりこれを従価税に変換した均衡関税率α※は:α※=252.86%となる。
これによると,kg当たり189.757円が均衡関税率で,米国内で生産されるShirakiku 米と日本国内で生産される鳥取こしひかりがこの関税率水準で均衡することを意味することとなる。したがって,この関税率以下であるなら関税額を支払っても輸入することが採算に合い,関税障壁を乗り越えて輸入される可能性が生じてくる。一方,初年度関税率が351.17円/kgであるから,kg当たり189.557円以上の関税率であるならば,米国産米は関税障壁を乗り越えて輸入される可能性は認められない。
次に,米国産米を同じくShirakiku 米とし,日本産米を第5表に示されている魚沼産米として均衡させた場合の試算を試みることとする。先の試算例同様に10kg当たり均衡関税率が次のように求められる。
【米国産のShirakiku米と日本産の魚沼産米を均衡させた場合】
β=Y-93.998839X-115.3077t-832
=7160-93.998839*18.72-115.3077*.5-832
=5577.57(円/10kg)
さらに,この関税率を従価税に変換すると,次のようになる。
(イ)日本産魚沼産米の小売価格X(¥) :Y=7160
(ロ)従量税による均衡関税β※(円/10kg):Y-93.998839*X-115.3077t-832=5577.57
(ハ)従価税に変換した均衡関税率:α※(%):β※/(93.998839X+115.3077t)=743.26
各種推計関税のまとめ
(1)Shirakiku米の従量税351.17円/kgを従価税に変換した関税率%:α=467.9613%
(2)均衡式に基づく従量税による均衡関税率β※(円/10kg):β※=5577.57円/10kg
(3)均衡従量税β※を従価税に変換した関税率%:α※=743.26%
となる。すなわち,kg当たり557.76円が均衡式に基づく推計均衡関税率で,米国内で生産されるShirakiku米と日本国内で生産される魚沼産米がこの関税率水準で均衡することを意味することとなる。したがって,もし品質が同じであるとするならばこの関税率以下であるなら関税率を支払っても輸入することが採算に合い,高い魚沼産米価格を背景に日本国内でも流通することとなる。しかしこれ以上の関税率では輸入は採算に合わない。初年度関税率は351.17円/kgであるから,557.76円/kgという高い関税率を払ってまでも日本国内に輸入し,流通することにはならないものと思われる。
しかしこれはあくまでも,米国産のShirakiku 米と日本産の魚沼産米とが品質に差がないとしての試算であることに改めて注意をする必要がある。
第7表および第8表はこれらの試算結果をまとめたものである。
さらに,このようにして試算した従量税351.17円/kgを従価税に変換した関税率α,均衡式に基づく従量税表示の均衡関税率β※ ,さらにその均衡従量税β※を従価税に変換した関税率α※の3種類の関税率を,各小売価格について算定しとりまとめたものが第9表である。
第7表 米国産米と日本産米小売価格均衡に伴う均衡関税率計算モデル
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Shirakiku の具体的
項 目
計算式
推定値(10kg当たり)
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海外流通経費
(a)米国内末端小売価格($)
X
7.37
(b)自国内販売手数料(小売価格の19.48%) 0.1848X
1.361976
(c)推定FOB価格(a-b)($)
0.8152X
6.008024
(d)海上輸送費($)
t
0.5
(e)海上保険料($)
{(c+d)*0.006} 0.0048912X+0.006t
0.039048
(f)金利($){(c+d+e)*0.012}
0.0098410X+0.012072t 0.078564
(g)輸入業者手数料($){(c+d+e)*0.03} 0.0246027X+0.030180t 0.196412
(h)CIF価格($){(c+d+e+f+g)}
0.8545349X+1.048252t 6.822048
(i)円建てCIF価格(¥)(110/1ドル) 93.998839X+115.3077t 750.4253
(j)従量税による関税351.17円/kg:β 3511.7
3511.7
(k)従価税に変換した関税率%:α
3511.7/(93.998839X 467.9613
+115.3077t)
日本国内流通経費
(l)通関手数料(¥)(7,000/トン)
70 70
(m)倉庫保管料(¥)(600円/トン 10*20日) 12
12
(n)倉庫渡し価格(¥)(i+j+l+m) CIF+β+82 4344.1253
(o)国内販売手数料(¥)(750/10k)
750
750
(p)末端小売価格(¥)(m+n)
CIF+β+832
5094.12
(q)調査小売価格(¥)
Y
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注1) 具体的試算に使用した小売価格はロスアンゼルスのENBUN
MARKET店の Shirakikuである.
2) 海上輸送費は,米国西部カルフォルニア州からの輸送を想定:t=0.50ドル/10kg.
3) 為替レートは1ドル=110円.
第8表 米国産米と日本産米小売価格均衡に伴う具体的均衡関税率試算例
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Shirakikuの具体的
項 目
計算式
推定値(10kg当たり)
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(h)米国産米CIF価格($) 0.8545349X+1.048252t 6.822048
(i)円建てCIF価格(¥)(110/1ドル) 93.998839X+115.3077t 750.4253
(j)従量税による関税351.17円/kg:β 3511.7
3511.7
(k)従価税に変換した関税率%:α
3511.7/(93.998839X 467.9613
+115.3077t)
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日本産米を鳥取こしひかり(3480円/10kg)とした試算
(イ)日本産鳥取こしひかり小売価格X(¥) : Y
3480
(ロ)従量税の場合の均衡関税β※(円/10kg): Y-93.998839X
1897.57
-115.3077t-832
(ハ)従価税に変換した均衡関税率α※(%) : β※/(93.998839X 252.86
+115.3077t)
日本産米を魚沼産米(7160円/10kg)とした試算
(イ)日本産鳥取こしひかり小売価格X(¥)
: Y
7160
(ロ)従量税の場合の均衡関税β※(円/10kg): Y-93.998839X
5577.57
-115.3077t-832
(ハ)従価税に変換した均衡関税率α※(%) : β※/(93.998839X 743.28
+115.3077t)
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注) (h)〜(k)式は第7表より転記.
2)各小売価格均衡関税率の各種試算
ここでは,改めて小売価格均衡関税率推計式に基づく各種の関税を試算のうえ,全体をとりまとめることとする。算定の対象にするわが国の小売価格は第4表に示した鳥取市内に立地するジャスコ鳥取店の小売価格,鳥取こしひかり,三重こしひかり,きらら397,および第5表に示されている新潟こしひかり,魚沼産米の計5種銘柄とし,一方米国内で販売されている5銘柄について,相互の均衡関税率を算出すると,第9表のようになる。
第9表 日米小売均衡価格に伴う均衡関税率推計
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2001年調査小売価格 2000年報告小売価格
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区 分 鳥取こし 三重こし きらら 新潟こし
魚沼
ひかり ひかり 397
ひかり 産米
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α
467.96 467.96
467.96
467.96 467.96
E Shirakiku β※ 189.76 237.76 139.76 279.76 557.76
N
α※ 252.86 316.83 186.24 372.80 743.26
B |
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U
α 461.60 461.60
461.60 461.60 461.60
N Botan β※ 188.72 236.72 138.72 278.72 556.72
α※ 248.07 311.16 182.34 366.37 731.79
M |
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A
α 330.81 330.81 330.81 330.81 330.81
R Hikari β※
158.64
206.64 108.64 248.64 526.64
K
α※ 149.44 194.66 102.34 234.22 496.10
E |
|
T
α 193.24
193.24 193.24 193.24
193.24
Gold tamaki β※ 83.07 131.07 33.07 173.07 451.07
α※ 45.71 72.12 18.20 95.23 248.21
|
|
|
α 321.41 321.41 321.41
321.41 321.41
Hikari β※ 155.54 203.54 100.54 245.54 523.54
M
α※ 142.36 186.30 92.60 224.73 479.18
I |
|
T
α 250.34 250.34 250.34
250.34 250.34
U Nishiki★ β※ 124.52 172.52
74.52
214.52 492.52
W
α※ 88.77 122.99 53.12 152.92 351.11
A |
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α 173.42 173.42 173.42
173.42 173.42
Gold tamaki β※
62.30 110.30 12.30 152.30 430.30
α※ 30.76 54.46 6.07
75.21 212.49
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注1) ★はENBUN MARKETのKokuho koda
と同一価格である.
2) αはそれぞれ従量税351.17円/kgを従価税に変換した関税率%,β※は均衡式
に基づく従量税表示の均衡関税率,α※は均衡従量税β※を従価税に変換した
関税率を表す.
3) 両国産とも10kg換算をベースとしている.
7.関税率の変化に伴う関税障壁への影響
1)重量関税が年々引き下げられた場合の関税障壁の検討
ここでは関税率が年次毎に引き下げられた場合の関税障壁の効果について検討する。現行の関税制度では初年度1999年の関税率は1s当たり351.17円,2000年度には2.5%下がって341円となっている。さらに今後は年々下げ幅が2.5%ずつ引き下げられることを想定すると関税障壁にも当然影響がでてくることとなる。
関税率が引き下げられるとそれに伴って関税障壁を越えて輸入されるコメが多くなることとなろう。第1図は米国産米が関税率の変化によって均衡関税率がどのように位置づけられるものかを従量税の場合について示したものである。
これでみると,関税率351.17円/kgのもとでも,日本産の魚沼産米と均衡化させた米国産米は全てが関税を支払っても輸入が採算に合うこととなる。魚沼産米は国内でも良品質米として高い評価を得,流通価格も他の国産米の2倍又はそれに近い高水準を保っている。したがって,あくまでも品質が同等で価格面のみで均衡化させた場合には,少々の関税を支払っても日本国内で十分高い販売価格が維持できるということから関税障壁を乗り越える可能性を示すものである。
しかし,一般的な新潟こしひかり,きらら397等と均衡化させた場合には関税制度導入時点では関税を乗り越えて輸入される懸念はないものと見通される。これは新潟こしひかりは魚沼産米に比較して価格がかなり劣り,そのような価格水準の下では関税を支払ってまで日本国内で販売することが採算に合わないことを意味するもので,ある。しかし,2007年頃になると関税率が下がり,shirakiku,botan等の比較的安い米国産米が関税障壁を乗り越えて輸入される状況が生まれてくるものと見通される。しかしながらより安価なきらら397については,関税制度導入から20年近く経過する2020年時点において,初めて関税障壁を乗り越えそうな状況が生じるものと想定される。
2)従価税による小売価格均衡条件下の関税障壁の検討
これまでは従量関税による関税障壁の効果について検討してきたが,こでは従量税を従価税に変換した場合の均衡関税率の影響について考察することとする。従量税の場合は価格に関係なくkg当たり351.17円の関税が賦課されることになるが,従価税の場合は,価額に対して賦課されることになるから,価格水準によって賦課される関税額は異なってくる。第2図は第9表に算定されたα※,すなわち,均衡従量関税を従価税に変換したものであるが,これを魚沼産米と,新潟こしひかり,及びきらら397に沿って整理・図示したものである。
これらの均衡従価税が関税障壁を越えるかどうかは,従量関税351.17円/kgを米国産米の各銘柄毎に変換される351.17円従価税との比較によって判定される。第2図の右側縦軸はその従量税を従価税に変換したものである。
これによるとshirakikuの場合,魚沼産との均衡従価税は750%と高い値を示すが,351.17円を従価税に変換した場合は460%前後となるため,従価税で判断しても shirakiku は関税障壁を乗り越えて輸入される状況にあることとなる。
さらに,gold tamaki(MITUWA)の場合でも351.17円を従価税に変換した場合の関税率が173円程であるから,同じく関税障壁を乗り越えて輸入されるおそれが認められる。しかし,新潟こしひかりの場合には全ての銘柄の均衡関税が変換従価税を下回り、関税障壁を乗り越える状況は生じないものと思われる。さらに比較的安価なきらら397の場合には一層その傾向が強くなることが認められる。
3)関税率の変化に伴う関税障壁の効果
第3図は均衡関税率の相互関係を表したものである。これによって,日本産米に対応する米国産米の均衡関税率と,設定される実際の関税率との関係が明瞭に把握することができる。関税率を示した直線のグラフより上部が関税障壁を乗り越えて輸入が想定されるものである。
一般に日本国内の価格が高く,逆に米国内の小売価格が低い小売価格を均衡化させた場合は,より高い関税を支払ってもなお,日本国内で流通する可能性が強いことが想定される。すなわち,縦軸に日本産米価格,横軸に米国産コメ価格を取った座標上では,左上に位置する均衡点は障壁を乗り越えて輸入されやすく,逆に右下に位置する均衡点は関税障壁を乗り越えて輸入される可能性の少ないことを示すこととなる。その境界が均衡関税率グラフである。それは次のようにして求められる。
いま,第3図において,米国産米のshirskikuと1999年関税率β=351.17(円/kg)との交点,すなわちY座標は,先の均衡関税率モデル式より次のようになる。
Y=β+93.998839X+115.3077t+832
=3511.7+93.998839*7.37+115.3077*.5+832
=5094.12($/10kg)=46.3(円/10kg)
同様に,米国産米のgold tamaki (MITUWA)米と1999年関税率との交点,を求めると次のようになる。
Y=β+93.998839X+115.3077t+832
=3511.7+93.998839*20.93+115.3077*.5+832
=6368.74($/10kg)=57.9(円/10kg)
このようにして求められた2点間を結ぶ直線が均衡関税率グラフである。すなわち,この直線より左上に位置する均衡点が,初年度関税率α=351.17(円/kg)のもとでも関税障壁を乗り越えて輸入される可能性があることを示すものとなる。これによると,魚沼産米との均衡化では全ての米国産米が関税障壁を乗り越える領域にあり,それ以外の日本産米では関税障壁の効果が認められる領域にあることを確認できる。
しかし,関税率が引き下がり,2010年時点のα=240.6(円/kg)のもとでは新潟こしひかり,三重こしひかり,は比較的安い米国産米との均衡化を想定すれば関税障壁を乗り越える可能性も懸念されるが,相対的に高いgold tamaki米などと均衡させた場合には,依然均衡関税率直線の右下の領域に位置し,関税障壁の効果が認められるものである。
さらにその傾向は,2020年時点頃まで維持されるが,鳥取こしひかりが安い米国産米のshirakiku,botan,などと均衡化させた場合に新たに関税障壁を乗り越える条件に近づくことが想定される。しかし,安価なきらら397は依然均衡関税率直線の右下領域に位置し関税障壁の効果を維持することが想定される。
7. 要 約
本報告ではまず,米国西海岸カリフォル州ロスアンゼルス市内におけるジャポニカ米の流通・市場価格調査の結果をとりまとめ,さらに明らかにされた小売価格に基づいて,わが国のコメ小売価格との均衡化を条件に算定される均衡関税率を推計し,関税障壁の効果について検討した。
その結果明らかになった点を要約すると以下のようである。
@カリフォルニア州,及び,アリゾナ州のジャポニカ米の小売市場価格を整理すると,短粒種を主体とする上質米と中粒種を主体とする各種銘柄米との間にはかなり明確な格差が認められる。さらに,地域によって若干の傾向の違いかあるものの販売店の規模間に格差が存在する。従って均衡関税率の算定には特に平均化及び販売単位を調整することなく素小売価格を用いることとした。
また小売価格均衡関税率の分析からは次のことが明らかになった。
A小売価格均衡化関税率推計モデルによる均衡関税率の計測の結果,gold tamahi米,及びnishiki米などの比較的高品質のAランクに区分される米は価格も高いことから,わが国の魚沼産米を除く一般的なコメと十分競争ができ,現行の初年度関税率351.17円/kgの下では関税障壁を乗り越えて輸入さることはないものと思われる。しかし魚沼産米との競争については,品質が同等ということであれば,関税を支払ってもなおわが国国内で高価格販売が可能であり,関税障壁を乗り越えて輸入されることが想定される。しかし現実的には魚沼産米と価格面では競争ができても,食味などの品質の面では対等に競争は困難と思われる。
Bしかし,Bランクに属するshirakiku,botan,hikariなどの一般的に安い小売価格米については,初年度の関税率の下でも輸入が採算に合う状態も生まれてくる。特に関税率が年々引き下げられていった場合には,2010年頃に至るとそのような関税障壁を乗り越えて輸入される米国産米も現れてくることが想定される。
最後に本報告では,比較される日米間のコメは価格のみの観点から関税障壁効果を検討したものであり,品質には差が無く,同一であることを暗黙に仮定していることに注意する必要があることを指摘しておきたい。
参考文献
[1]伊東正一:世界のジャポニカ米-その現状と潜在的生産能力-,全国食糧振興会,pp.22 〜31, 1994.
[2]伊東正一:コメ「関税化」分析−輸入の可能性と食料安全保障−,農林業問題研究,
第35巻第4号, pp.13〜18, 2000.
[3]世界のジャポニカ米研究グループ(代表伊東正一):第8回ジャポニカ米・国際学術 研究報告会及びシンポジューム, pp.100〜115, 2000.
[4]世界のジャポニカ米研究グループ(代表伊東正一):第7回ジャポニカ米・国際学術 研究報告会及びシンポジューム, pp.1〜9,1999.