はじめに

今日の穀物の国際価格は史上最低の状態になっております。特にコメはタイ・バンコクの輸出価格が1トン当たり精米が昨年夏から190ドル前後(100%B)で推移しており、これまでの最低だった1993年ころの290ドルに比べて大幅な値下がりとなっています。一方、ジャポニカ米の相場として重要なカリフォルニア産中粒種の相場も昨年の夏までは500ドルレベルの高値を維持していましたが、その後は急激に下落し、20012月には300ドルを下回る状態となっております。

おりしも、日本でも価格の値下がりはとどまるところを知らず、生産者や流通業者の不安をより一層深刻なものにしております。日本の経済状態も株価の異常な値下がりに代表されるように、経済回復が見られないまま物価も値下がりするというデフレ現象を見せております。このような状況では経済の回復は遠のくばかりで、ましてやコメ価格の上昇は期待しにくい今日となっております。消費者にとって見れば価格の値下がりそのものは歓迎すべきことで、所得の減少や伸び悩みからみて、低価格の品物に需要が高まるのは当然なことです。また、こういう国際情勢であればこそ、WTO(国際貿易機関)の交渉においても、輸出国は新たな市場を求めて自由化をさらに強く求めてくることになります。

さて、私たちは文部科学省の科学研究費助成金により1991年から、日本人が主食としているジャポニカ米に関し国際学術調査研究を続けてまいりました。特に、その現状と潜在性、そして今後の見通しに重点をおき、研究を重ねてきました。私たちのモットーはどのようなイデオロギーにも偏らず科学的な立場から研究の成果をいち早く社会に提供するというものです。その情報が社会のお一人お一人の判断材料となれば私たちの喜びとするところであります。

今年度は3年間の現プロジェクト「世界におけるジャポニカ米の生産・流通と潜在的生産能力に関する学際研究、その2」の最終年度になります。今年度の調査国はアメリカと中国に的を絞って実施しました。ジャポニカ米のカギを握るこれら2つの国はやはり目が離せません。状況は常に変化しております。また、本プロジェクトのホームページ(http://worldfood.muses.tottori-u.ac.jp)もさらに充実させ、情報を発信しております。特にこの中では米国農務省(USDA)が公表している基礎データ、PS&D View、を利用し、「世界の食料統計」を作成しました。これは世界200ヶ国に及ぶ食料の需給状況を過去40年間に渡りグラフと数値の両方で表しています。品目はコメだけでなく、コムギ、コーン、ダイズ、それに畜産物も加えております。さらに、英語版(World Food Statistics & Graphics)も作成し、世界に情報を発信しております。近日中に中国語版とスペイン語版を新たに作成し、世界中でより多くの方々が利用できるように充実していく予定です。

本報告書では世界のジャポニカ米について、市場の状況、生産技術の状況、今後の可能性などについて表しております。日本人メンバーによる報告に加え、カリフォルニア州政府のShaffer(シェイファー)氏、ウィスコンシン大学のHu()博士による私たちとの共同研究の成果を載せております。このような報告に対し、皆様からのご質問などをお寄せいただければ幸甚です。

今年度の報告会・シンポジウムは京都での開催となりました。これまで、鳥取で4年間開催した後は鳥取を離れ、東京を皮切りに、神戸、福岡、仙台と場所を移してきました。今回で第9回と回を重ねてくることができましたのも、各研究メンバーの協力があったと同時に、毎回100人を越える方々が全国ネットで出席していただいていること、また、多くの先輩・後輩諸氏、及び関係機関からの叱咤激励があること、などに支えられているからであります。ここに改めて御礼申し上げます。また、京都大学の稲本教授研究室の皆様からは絶大なるご支援を賜りましたことを申し添えます。

200134

研究者代表 伊東正一

 

 

 

本研究による現地調査国

1991年度:アメリカ合衆国

1992年度:アメリカ合衆国、タイ、フィリピン、インドネシア、シンガポール、オーストラリア、イタリア、スペイン 

1993年度:アメリカ合衆国、中国、イタリア、スペイン、フランス、英国、オランダ、ハンガリー、ブルガリア

1995年度:アメリカ合衆国、中国、インド、イタリア、スペイン、ブラジル、ベトナム

1996年度:アメリカ合衆国、中国、ブラジル、ウルグアイ、アルゼンチン、オーストラリア、ニュージランド 

1997年度:アメリカ合衆国、中国、フィリピン 、ラオス、ミャンマー、オーストラリア、ニュージーランド、マダガスカル、エジプト

1998年度:アメリカ合衆国、中国、ロシア、カザフスタン、ベトナム

1999年度:アメリカ合衆国、中国、ロシア、ウクライナ、マダガスカル、モーリシャス

2000年度:アメリカ合衆国、中国