コメを取り巻く国際情勢

 

鳥取大学 伊東正一

 

国際価格は1992年来の低迷

コメの国際価格は昨年の初頭までの約4年間に於いて高値が続いていた。アメリカの相場は籾100ポンド当たり、10ドル前後の価格で推移し、特に、日本の緊急輸入(1994年)以後はそれ以前の安値に反し高値が続いた。それ以前の1992年当時は精米1トン当たりの価格ではアメリカ産長粒種の320ドルや同中粒種の380ドル、バンコクの240ドル(100B)という状況であった。しかし、日本の不作及び緊急輸入をきっかけに翌年の後半から徐々に上昇し、一時期を除き1トン400ドル前後の価格(米国産長・中粒種)が1998年の夏ころまで続いた。米国産の中粒種にいたっては日本の輸入の影響も大きく、19986月以降は1トン当たり500ドルを超える状態にまでなった。500ドルを上回る価格を4ヶ月続けた後、少しは下降したものの、今年2月の段階でも400ドル台半ばの値で推移している(図1)。米国産中粒種の価格がこのような高価格でしかも長期間にわたり推移したのは1970年代から80年代初頭にかけての高価格以来のことである。

その一方で長粒種は近年において大幅な価格の低迷が生じている。特に、昨年からの価格の落ち込みは大きく、1トン当たりの価格は2000年に入り300ドルを割る状態になっている(1)。農家価格では1998年産の平均価格が籾100ポンド当たり約8.5ドルだったものが、1999年産は6ドルを下回る見通しである。約3割の値下がりが見通されていると言うことになる。今年2月の段階ではすでに5.2ドルという状態である。長粒種の農家価格が年平均で6ドルを下回ったのは1992年産の5.87ドルのほかは1986年に新農業法(1986年農業法)が施行されて市場が一変し、3.82ドルに暴落して以来のことである。それでもその翌年、1987年には7.77ドルと大きく回復している。

 

このような長粒種の価格低迷の背景にはアメリカでは1999年の生産量が前年に比べ13%も伸びて664万トン(精米換算)と史上最高となったことが上げられる。その一方で輸出と国内消費は生産に見合った伸びはなく、期末在庫が前年度の約2倍になる見通しとなった。生産量が伸びた背景には作付面積が前年に比べ7%上昇したことが注目される。この作付面積の増大は、作付時に於いて稲作が他作物に比べ相対的にメリットが大きいという見通しがあったことによる。1996年農業法では減反制度を廃止し、作付を自由にした。よって、収益性の高い作物に生産が集中する傾向にある。ただ、作付面積に制限が課せられないことにより、効率の良い農家は市場価格が安い中でも生産を拡大する可能性があり、現在のような価格の低迷がどこまで今年の生産の拡大を抑えるか、疑問である。このような効率化により、価格低迷と増産が同時進行する可能性がある。

こうした中で、ジャポニカ米の生産を中心とするカリフォルニア州の稲作の価格は日本の輸入に支えられて、価格の落ち込みは長粒種に比べ非常に小さい。このためカリフォルニア産中粒種と南部の長粒種との価格差は拡大する一方で、今年2月の時点では1トン当たり150ドルの価格差が生じている。ただ、カリフォルニアも増産の傾向があり、1999年産においては同州では1981年(24ha)に次ぐ史上第2位の生産面積(23ha)となっている。単収は近年の状況から見るとやや落ちるものの、今後にかける増産の機運は強い。稲作は他の作物に対し、相対的に収益性が高いため、これまでに稲作地帯ではなかった地域において他作物から稲作に切り替える動きが出ている。このような状況が現実のものとなると、今後のカリフォルニアの稲作面積はこれまでの「限界」と言われていた24haを上回ることもあり得よう。

 

他の主要輸出国も史上最高の生産量

中国の1999年産の生産量は14100万トンと史上最高となっている。単収も精米換算で1ha当たり4.5トンで史上最高を記録した。中国では近年のコメ需給はだぶつき気味で、市場価格も下降線をたどっている(2)1998年及び1999年の12月のジャポニカ米の小売価格(全国平均)は1kg当たりそれぞれ2.84元及び2.38元(32円)であり、この1年間においても16%の値下がりとなっている。

中国のコメ政策は品質ごとに消費者ニーズの違いを取り入れ、国の買い入れ価格を品質ごとに設定した政策を実施しているが、一方では流通を国が独占化する傾向にあり、市場のメカニズムを取り入れた流通体制への変換は今のところ足踏み状態にある。しかし、今後は国の統制力も弱くなり、実質的には市場のメカニズムが徐々に強く現れたシステムが構築されるであろう。

タイの生産量も1999年は1,600万トンで史上最高となり、また、輸出量も近年では600万トン台で安定的に推移している。インドの1999年産は史上最高だった前年の生産量とほぼ同じ8,500万トンが見込まれている。ベトナムも2,000万トンと、前年と同レベルの史上最高の生産量となっている。

このような各国の増産傾向により、世界の総生産量も増産となっており、1994年から毎年にわたって史上最高を更新しており、1999年産は39742万トンと、4億トンの大台に手が届きそうな状況である(図3)。ちなみにこの6年間に世界の生産量は約12%増大している。また、世界のコメの貿易量も近年は急速に拡大し、1997年が2千万トンでそれまでの最高レベルであったが、翌1998年は一挙に2,800万トンに達した(図4)。その後も1999年が2,600万トン、そうして2000年が2,400万トン余りが見込まれている。これは10年前には僅か1,500万トンであったことを考えると驚くほどに増大していることが伺える。このような状況をみると、世界における近年のコメの貿易量は2,500万トンのレベルで推移している、また、近い将来に3,000万トンのレベルに到達すると推測される。

 

 

輸出の主要国はやはり依然としてトップはタイで、1997年及び1998年はそれぞれ640万トン及び670万トンとともに600万トンを上回っている。1999年度も600万トンが見込まれ、2000年は在庫量が増えて輸出は550万トンに減る見通しだが、今がタイの輸出量は年間600万トンレベルは堅いとみることができる。また、第2位のベトナムは1999年が前年を下回るものの460万トンとなり、2000年も400万トンのレベルが見込まれている。第3位にアメリカが出て来るという状況で、300万トンレベル。但し、中国の輸出が近年では増大し、1998年の373万トンを皮切りに翌1999年が270万トン、2000年も280万トンが見込まれている。このペースで中国が輸出を拡大すると、アメリカを追い抜いて世界第3位のコメ輸出国に浮上する可能性もある。

主要なコメ輸入国としてはインドネシアが1998年の600万トンで突出したが、1999年は390万トン、2000年が300万トンの輸入を見込んでいる。インドネシアのコメ輸入は生産の増大とともに減少が見込まれている。1999年において輸入量が100万トンを上回った国はバングラデシュ(180万トン)、フィリピン(120万トン)である。2000年においてもこのような国々が主要な輸入国となる見通しだが、このほかにもブラジル、イラン、ナイジェリア、サウジアラビアが100万トンに近い輸入量が見込まれている。

 

 

日本の2000年の輸入量はMA米の約75万トンが見込まれ、世界の中では準主要輸入国といったところである。しかし、アメリカの輸出相手国としては1999年からブラジルを抜いて日本が最大の顧客となっている。このことはアメリカからみれば今後とも安定した米国産米の輸入を期待する一方で、その他のコメ輸出国からすれば日本の市場に参入し根を下ろし、少しでも多くのシェアを獲得していきたいという熱い視線が寄せられることになる。そのような観点から、日本の市場は世界のコメ輸出国がしのぎを削ってシェアを獲得するという構図が描かれる。その競争の構図の中には日本の生産農家もしっかりと位置づけされるわけである。

 

世界の期末在庫量も増加

国際市場は昨年産までの世界的な増産を背景に今後とも価格の低迷が続くものとみられる。1999年度の期末在庫の見通しも史上最高の5940万トンが見込まれている。これはこれまでの史上最高だった1990年の5920万トンをほぼ10年ぶりに更新することになる(5)。ただ、在消比率(在庫量の消費量に対する比率)では1990年度の17%に対し1999年度は15%となる。近年の最も低かった在消比率は1996年度の13.5%であるので、それからみるとかなり高い比率になっている。輸出国ではタイ、アメリカで前年度に比べ2倍の在庫量となるのを初め、その他の主要輸出国でも在庫量が増大しており、こうした点からも国際価格の上向き傾向が現れるのは当分先のこととみられる。このような状況から、世界の2000年の作付面積は減少する可能性が強い。すでに南半球の国々ではオーストラリアやアルゼンチンなどを初め、1999年の作付は前年に比べ減少している。世界の稲作面積の減少はもし実現のものとなれば国際価格が低迷していた19923年に減少して以来、7年ぶりのこととなる。ただ、反収は増加の傾向にあり、作付面積が減ったとしても生産量が減るかどうかは微妙である。

 

 

参考文献

1.   United States Department of Agriculture (USDA): Rice Situation and Outlook Yearbook, Economic Research Service, RCS-1999, November 1999.

2.   ___________________, Rice Outlook Report, 1.13.00 and 2.14.00, January and February 2000.

3.   ___________________, WASDE (World Agricultural Supply and Demand Estimates), 02.11.00, February 2000.

4.   ___________________, PS&D View, January 2000.

5.   Ito, Ito, Shoichi, E. Wesley F. Peterson, Bharat Mainali and Mark W. Rosegrant, “Estimates for Evolution of U.S. Rice Supply Response Using Implicit Revenue Functions: Implications to the World Food Supply and Trade,” Japanese Journal of Rural Economics, Vol.1, 1999, pp.39-51.

6.   伊東正一、蔡家生、李文、甲斐諭「中国における1998年食糧流通政策の改変」伊東正一編著『第7回ジャポニカ米・国際学術研調査究報告会及びシンポジウム』資料、19993月、於:福岡、pp. 71-75.

7.   中国国家計画委員会・市場価格研究所、『中国物価』(19981月号から20001月号までを参照)

 

 


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最終更新日:2000年6月28日

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